株式会社ARUTEGA代表の平尾です。
『統合報告書』をご存知ですか?
統合報告書とは、決算書だけではわからない、企業が真剣に取り組んでいる活動が写真付きでわかりやすくデザインされた冊子のこと。
クリエイティブ業界の方にはあまり馴染みがない統合報告書ですが、投資家などステークホルダーにとって重要かつ、コンテンツの企画・制作の大きなヒントになる魅力的な資料で、国内外でも注目されています。
私自身は、統合報告書を制作しているIR専門企業様のWebサイト制作をご依頼いただいたことがきっかけで、さまざまな企業の統合報告書を調べるようになり、情報設計の美しさに魅せられたのでした。ちなみに制作させていただいた企業様はエッジインターナショナル様です。
そこでこの記事では、統合報告書が今注目されている理由や、統合報告書を作成するメリットを解説。
さらに、資料作成はもちろんWebサイト制作の参考にもなる10社の魅力的な統合報告書をデザイナー目線で分析します。
統合報告書とは
統合報告書とは?
統合報告書とは、財務情報と非財務情報をまとめた資料のことです。
株主や投資家だけでなく取引先や従業員も含むステークホルダーに対し、自社の価値創造の方針や戦略への理解を深めてもらうために作成します。
近年ではこの統合報告書を、クリエイティブなデザイナーが作っている事例をよく見るようになりました。
確かにインハウスデザイナーが一番実力を発揮できるシーンの一つだと思います。
なぜ今、統合報告書が注目されるのか
日本では1998年より、日経統合報告書アワードが開かれており、日本を代表するグローバル企業や、上場企業を中心に、参加企業数が増えています。
その背景には、人々の事業に対する価値観の変化が関係していると思います。
昨今、ミッション・ビジョン・バリューの策定や、パーパスに注目が集まり、その事業が人々や社会にとって、本当に価値があることなのか、という企業の存在意義が強く問われるようになりました。それに関連し、企業のSDGsやESGへの取り組みも活発になっています。
そのため、統合報告書で事業価値を発信する企業が増えているのではないかと考えます。
中小企業が統合報告書を作成するメリット
中小企業にとって統合報告書を作成するメリットとはなんでしょうか?
私が考えるメリットは2つあります。
まずひとつは、企業の存在意義を投資家たちに正しく認知してもらえるということ。
当然のことながら、投資家から資本を集めることが、事業のエンジンになるからです。
もう一つの理由はオンライン上で簡単にPDF配布ができるようになったことも理由と言えます。
先に述べたSDGsとも関連しますが、資源を無駄にしなくてもオンライン上で閲覧でき、誰にでも見てもらうことができるからです。
Webサイトと統合報告書の両方を使用して、事業内容や社内での取り組みを公表することで応援してもらう。
今の時代にあった企業理念の発信方法だといえます。
統合報告書の事例紹介
ここからは、私が注目する企業の統合報告書の事例を、いくつかご紹介します。
デザイナーやライターの方にも参考にしていただける内容が多いと思います。
PDF形式で閲覧が可能なので、ぜひ気になる企業のデータがあればダウンロードしてご自身の業務の参考にしてみるのも良いかもしれません。
DeNA
グラフィックデザインが面白くて、開かれたカルチャーを垣間見れる気がしますね。
Webで見た際に、縦に繋がりがある構成になっており、退屈な資料にならない工夫がされている。
縦のデカタイポグラフィもおそらくWebデザイントレンドを踏襲してますね。
『共有価値観』というページがあることによって、会社に集まる人たちがどのようなキャラクターなのかがわかりやすく記載されています。
また会社が行っているイベントや制作実績がしっかり写真でわかりやすいのは当然のこと、 社外取締役のメッセージも長めに記載されていることで、読み手の信頼感を醸成できそうです。
コーポレートガバナンス体制において記載されているのが、ステークホルダーに向けて親切だと感じました。
マルイ / OIOI
ESG経営を牽引するマルイさん。
暖かく明るい印象。
社長をはじめとする、ポートレートのフォトディレクションは特に参考にしたい。
マルイさんが1番魅力的なのは、社会課題解決企業という姿を自ら明示している点です。
世界の課題へ向けた、自社の在り方を書いており、企業として応援したくなる。
毎年CEOをのメッセージから始まる統合報告書で、マルイさんは上場企業の中でもSDGsやESGsの最前線に立っている会社です。
去年と今年のアップデートされたインパクトKPIと財務KPIが記載されており差分が明確です。
ここでもマルイさんが考える社会課題解決企業がイラストを持って書かれていて、とても可愛くてわかりやすいです。
デザイナーとして個人的に好きなのは雑誌のようなレイアウトです。
特にインタビューではグッドパッチの土屋さんとのインタビューが書かれており、Forbes もびっくりなロングインタビューになってます。
また、マルイさんが特徴的なのは、役員スキルマトリックスといった役員の得意分野やスキルの分布を表にまとめたページがあることです。
これは、役員同士がどのようにお互いにカバーし合っているのか把握し、会社全体を俯瞰するのに役立ちます。
経歴もしっかり書かれているあたりがオープンで好印象です。
双日
データが特に多く、数値も想像できない部分がたくさん多い。
そこをしっかりインフォグラフィックを添えていることで、情報は多いけど見やすい構成になっている。
126ページを超える内容で、ここまで事業が複雑でボリュームが多いと、Webサイトだけで表現するのは難しいと思いました。
大企業になればなるほど、Webサイトを超えるボリュームになることが見て取れますね。
GOLDWIN
こちらのページから
こちらもマルイ同様、社長の写真を見るだけでも、しっかり自社の特徴を出せている。
他の統合報告書との違いは、余白の空気感。風っぽいグラフィック。
表紙を見てもわかるように、文字がビッシリ詰まっている窮屈なインタビューページと、クリーンでアウトドアな感じを見せる余白たっぷりのあるページを織り交ぜている。
雑誌の『TRANSIT』のように旅行本のようで、シンプルで写真を大きく使ったレイアウトがデザイナー好みだなぁって言うふうに思います。
全体的に文章が多く、その大半が社員たちのインタビューだと言う点も驚きです。
このように毎年発行している会社にとって、統合報告書は毎年のイベントごとになっているような気がします。イベント事になることで、今の現在の社員の立ち位置なんかが確認できるのが社員たちにとっても良さそうです。
サイバーエージェント
こちらもWebで一気見されることを想定した、縦にレイアウト。統合報告書以外の資料作成でも参考にしたい。
縦に連続した写真と余白を使ったレイアウトで見やすく、全体を統一してトンマナが整理されている。
Webで見せることを前提にしているので、印刷枚数にも制限がなく、それにより縦写真を大胆に配置するなど、リッチなレイアウト構成になっています。
“日本の閉鎖感を打破する”というメッセージがデザインにもしっかり反映されているようにも思います。
余白も多くてスッキリしてて、とても見やすい。
驚きの88ページです。
ラクスル
ラクスルにはBehanceまである。
Behance
『価値創造レポート』と名前がついた統合報告書は、会社全体でデザインに力を入れていることがわかる。
近年のWebを主戦場にしている会社は、デザインにとてもプライオリティを置いています。
ラクスルって、こんなに恰好いいんだ!って思えるくらい。
テッキーな青色を基調にサービス全体を説明するインフォグラフィックがとても見やすい。
事業戦略の図解は、Webサイト制作を考えるうえで、とても参考になります。
マネーフォワード
オレンジのワントーンで、濃淡を生かしながらシンプルにデザインされている。
『お金を前へ。人生をもっと前へ。』
というポジティブなメッセージが気持ちいい。
マネーフォワードはいろんなサービスを横展開してますが、各サービスがどういった顧客の課題を解決するかがダイアグラムで書かれていてとても見やすい。
グラフィックデザインの技が光るけど、しっかりWebで見ることを意識したページなってる。
大企業になればなるほど事業内容が複雑になり、色分けで表現することが増えますが、マネーフォワードはサービスごとに認知を獲得できているので、単色でも違いがわかりますね。
SANSAN
業績ハイライトは売上推移をグラフで表示することが多いですが、SANSANはオリジナルの線画のアイコンを使って表現しており、直感的な理解ができるようになっています。
編集方針にもあるとおり、上場するとステークホルダーは多岐に渡るので、誰にとっても読みやすくて、わかりやすいのはとってもいい!
にしても、オフィスがカッコいい。。
また、こちらの統合報告書はインフォグラフィックが多く、数値が多くてもちゃんと目に入ってきます。
他の企業よりも数値が書かれたグラフが多いことも、同社の特徴だと思います。
UZABASE
こちらは統合報告書とは名付けられてはいないが、多様な社会変容と価値観の変容にどのように会社が向き合っているかをデータを見せながら伝えるDEIB(Diversity Equity Inclusion Belonging)という資料。
デザイン性がとても高いのと、アート性が高い。
UZABASEが大切にしている考えが明確に記載されており、『異能は才能』という価値観について、ひたすら書かれた会社説明資料となっています。
ブランドガイドブックと呼んでもいいのかもしれません。有機的なモチーフがたくさん使われているけど、色合いが落ち着いていて見やすいです。
日清食品
テレビCMではいつもぶっ飛んでいる日清ですが、安定してぶっ飛んでます。
もう完全に見た目はジャンプの新刊ですが、肝心の内容はクリエイティブが凄すぎて頭に入ってきません。
グラフィックデザインがエグいのはもちろんのこと、この作風はとてもジャパニメーション的。
海外の人とかが見たら、表紙だけでポスターにして飾っちゃいたくなるのではないでしょうか。
CEOメッセージも斜め上を行ってます。
社長のプラモ!!!
他社の統合報告書をコンテンツ制作のヒントに!
このように、Web上でIR情報を公表されることは活発になった今、ダウンロード可能なPDF資料を作ることは親切です。
統合報告書は、アウトソーシングしにくいものなので、インハウスデザイナーの価値が上がっているのではと思います。
統合報告書以外にもカルチャーデッキや中長期経営計画書など、テキストベースになりやすい会社資料をもっとデザインの力でわかりやすく、そして伝わりやすいものにしていきましょう。
自社で制作を進めるのが難しい場合は、ぜひお問合せください。
弊社ではサイト制作と並行して、カルチャーデッキや統合報告書の作成のご相談も気軽に承っております。
ほなね