アルテガの平尾です。
弊社では、クライアントを巻き込むことを推奨しています。
もちろん巻き込まれることもウェルカム。
期待値が高いお客様が多い弊社ですが、昔デザイン制作会社に勤めていた頃、当自社意識がない担当者がトップダウンの組織に過去にいました。
当事者意識がない人、プロジェクトを進めるのが大変です。
だけど、ウェルカムです。
そういう人をどうやってその気にさせるか。
私はそんなことを必死に考えているんです。やる気がないのには理由があるはずだから。ゲームをクリアしたいあれです。
やる気がない状態の人がいても、その人の価値観を深掘りして、湿った導火線に火をつけることをやりがいとしています。
この記事を読んだ後に、プロジェクトの陣頭指揮を取る人たちに共感してもらいたい。またWebサイト制作の裾野が広がればいいと願います。
対話について今一度真剣に考る
プロジェクトの方針を決めるディレクション。
ディレクションとは時にリードし、時にフォローしたりして目的地にメンバーを連れていくこと。
とても責任重大な役割です。
ディレクター、クリエイティブディレクター、プロジェクトマネージャー、プロダクトマネージャーなどなど。営業部長や経営者だってそうでしょう。
“プロジェクトを監督し高品質なアウトプットを指揮する”立場にある方は、実際に手は動かさなくても、対話を重ねてプロジェクトを動かします。
肩書はいろいろですが、人を動かさないとならない立場にある方々は、あらゆる手法で事業やプロダクトを設計&構築して加速させていく。
やはり、その手法のほとんどは『対話』ですよね。だから対話について今一度真剣に考えました。
動機づけをしてほしいプロジェクトメンバー
さて、プロジェクトメンバー全員がオーナーシップを持っているとは限りません。皆さんもそう感じたことが、一度や二度かそれ以上か感じたことがあるでしょう。
トップダウンでやらされているだけの目的意識が無い人も混ざっていたりします。
そんな目的意識がないやらされ感のある人がプロジェクトに混ざると、前向きなメンバーにも悪影響を及ぼしますよね。
だから、内発的動機づけを考えなくてはなりません。最初のファシリテーターの仕事は、メンバーそれぞれの動機づけともとれます。
ゼロよりも前から考えます。
以降、この記事では“ファシリテーター”を、プロジェクトを推し進めるディレクターやプロデューサーを含むまとめ役の総称として扱います。
皆さんの立場に置き換えて読み進めてください。
働く意味のアクティブラーニング
さて、私の会社は企業やブランドサイトを作ることが多いのですが、Webサイト制作のプロセスはクライアントさまにとって学びが多い。
私は提案時から、Webサイト制作のプロセスは資産になると提唱し続けています。
その理由は、『なぜ働くのか』という問いを考え続けているからです。
- なぜこの商品を世に出したいのか。
- なぜメッセージを社会へ伝えたいのか。
- そして自分たちは何ができて何をしたいのか。
- みんなはなぜそこにいるのか
事業視点で考えていた問いを、自分視点の省察に変えます。
営業力、資金力、商品力はもちろん言うまでもないですが、そういった、“なぜ働くのか”を、自分だけではなく複数人で意見を出し合い、学習していくことはプロジェクトの成果に間接的につながるのではないでしょうか。チーム内での適材適所を考えるベースになる。
これってアクティブラーニングだと思いませんか?
即時性のある対話から能動的に経験して学習していく。
私はアクティブラーニングだと思います。
前提条件にさかのぼり、無意識的かつ暗黙知として転がっている共通認識を、意識的に言語化していく。メンバーが協働的に学習しあってます。
ワークショップで使われるF2LOの概念
新規プロジェクトはアクティブラーニングだ、という主張を先に述べました。
私が学んだ青山学院のワークショップデザインプログラム(WSD)の概念に、F2LOモデルというものがあります。これを組織論に置き換えて進めさせてもらいます。
ここでいうワークショップとは、平易な言い方をすると、“複数人で行う協働性ある学習”だと捉えてもらえればと。(※アカデミックな文脈でいうと厳密ではない)
F2LOモデルは、ファシリテーターの役割を示したモデルで以下の3つの要素で構成されています。
- F: ファシリテーター
- L: 学習者 (Learner)
- O: 対象物 (Object)
青山学院大学の苅宿俊文氏が提唱したモデルを私の解釈に変えたものです。
これはワークショップにおけるそれぞれの関係性をシンプルに図解しています。
ここでF2LOモデルを紹介したのは、いろんなプロジェクトがF2LOモデルを使って説明できると思ったからです。
本来のファシリテーターとは司会進行をして取りまとめる係で、自発的にリードする時もあれば、見守る時もあります。
実際の皆さんが普段働いている組織やプロジェクトでの人間関係を思い返してください。
ファシリテーターは職種に置き換えて考えると、実際にプロジェクトを進めていくディレクターやプロデューサーだったりしますよね。
そして、学習者はクライアントです。そう、クライアントは学習者に置き換えることができます。
画像の上半分はアイスブレイクや傾聴をして、学習者に発話するきっかけを与え、足場かけをしているシーンです。
画像の下半分は、学習者同士が自走して目的に向かい始めている状態です。
ファシリテーターの足場かけの役割が功を奏して、目的に向かって駆動している様子が表されています。ここまでくるとファシリテーターは静かに見守り、学習者が納得いく解を導き出すのを待ちます。
MTGやブレストでそのようなシーンはよくありますね。私もこの距離感を間違わないようにしています。
関係性の可視化
F2LOモデルは、ファシリテーター、学習者、対象物の間の相互作用を視覚的に表現します。進行に伴うファシリテーターの役割の変化を示します。
- 初期段階: ファシリテーターが学習者を対象物に引きつける
- 中間段階: 学習者が対象物に近づく
- 最終段階: ファシリテーターが離れても学習者が対象物に留まる
初めは積極的に介入し、徐々に見守る立場へと移行します。
F2LOモデルは、ワークショップを構成する最小限の要素と関係性を抽象的に表現しています。実際のワークショップでは、より複雑で多様な関係性が存在することを念頭に置く必要があります
クライアントは学習者に成り得る
新規プロジェクトで、F2LOモデルに当てはめると、学習者がクライアントに置き換わるのはわかりました。
プロジェクトの成功において、学習者が答えのない問いに向かって自己決定を下し、前に進んでいくことはとても大切です。
プロジェクトが立ち上がった後も、愛着を持ってお手入れして行くことになるから。
私たちファシリテーターは、内的動機をヒアリングや対話の中で見出せるかが重要になります。
大人は理由がないと行動しない
ちょっと話はそれますが、大人と子供の大きな違いを考えてみましょう。
子供は目の前に正解がないもの、未知のものにワクワクする特性を持ちます。
それとは逆に大人は未知のものには不安があり、目的やゴールに向かう理由を伝えないと行動に移せません。
- 子供:WHYが不要
- 大人:WHYが必要
これらを理解した上で、長期的にはプロジェクトのゴールを、短期的にはミーティングでのゴールを伝えることが重要です。大人は生存本能が先にたち、未知のものは怖いんです。
目的やゴールを伝えることを怠ると、動機づけまでたどり着くことが困難になります。
自己決定理論と内発的動機づけ
2020年:デジタルハリウッドの非常勤講師である古新氏の『児童を対象としたワークショップにおけるF2LOモデルの組み立てと内発的動機づけの考察』によると、外発的動機づけは、自己決定が低い順に外的調整、取り入れ的調整、同一化的調整、統合的調整の4つに分類されます。
すでに内発的動機があり、熱心にオーナーシップを持ってプロジェクトを推し進めようとしているメンバーは、ファシリテーターが目的にわざわざ連れて行こうとしなくても、率先して取り組みます。それ以外の大人たちは、多かれ少なかれリードしていく必要があります。
古新氏の研究から内的動機についての記述を引用します。
外的調整(external regulation)とは、物的報酬の獲得や罰の恐怖を避けることを目的とし、「お小遣いがもらえるから勉強する」という
例が挙がる。取り入れ的調整(introjected regulation)とは、恥をかきたくない、自己の価値を感じたいために行われ、「親に褒められるために勉強をする」がその例である。同一化的調整(identified regulation)とは、行動の価値と自己とを同一化させ、楽しくはないけれど重要であるから行うことであり、例として、「大学に行くために楽しくはないけど勉強をする」が挙げられる。4つ目の統合的調整(integrated regulation)とは、自己の中で迷いや葛藤を経ずに活動そのものが自己と一体化された状況にあり、「勉強することで自分を高められる」という例を挙げられる。最後に、内発的動機づけとは、内的調整が行われ、対象に対しての興味や楽しさなどの感情から自発的に行動に結びつく動機づけである。
※古新氏の研究をそのまま引用しています。
経験学習モデルでパーパスを浸透させる
さて、動機を作ることがファシリテーターの役割であることはわかりました。
学習者・プロジェクトメンバーはどのようなプロセスで、対象のブランド(モノ・企業)をアクティブラーニングしていくか。
そのプロセスを説明したのが、経験の中から学んだ内容を次に活かしていく学習のプロセス:経験学習モデルです。
下記の図は、経験学習の提唱者:デイヴィッド・コルブが提唱したものをもとに図式化したものです。
経験学習モデル
- 経験したことを振り返る
- 内省の中から学びを得る
- 得た学びを概念化する
- 概念化した学びを実践に活用する
デイヴィッド・コルブの経験学習モデルをベースにした1on1や、企業研修は数多くあり、今でもワークショップや教育の現場で活用されている学習理論です。
ファシリテーターはメンバーがどの状態にあるかを観察します。
プロジェクトのビジョンやブランドのパーパスを、経験学習モデルを用いて受動的な学びから、能動的な経験に変えていく。
深く事業理解や価値を感じて、その企業で働くことの意味を考える。
自分の働きが認められることは企業にとっても個人にとっても幸せなことです。
弊社がWebサイト制作のプロセスがアクティブラーニングだと思う理由はこれらにあります。関わるメンバーの自己肯定感をさらに自己効力感に変えて、事業スピードを加速させるフックになると考えています。
自社サイトリニューアルに学ぶWebサイト制作
私たちは自社サイトのリニューアルの真っ只中。
デザインを作る前のプロセスで、自分が何を考えているのか、どのような方針で会社のいく末を考えているのかを問われている実感があります。
自社のことを徹底的に考え、無意識で行われている概念や価値観を意識化すること。企業もしくはブランドサイトの場合、その顕在化こそWebサイトを作る最大の成果物です。
もちろんWebサイトを発信基地にしてメッセージを発信することで、企業の認知や売り上げに貢献するのが本来の目的です。
だからといって、制作プロセスで明確になる言語化&共通認識が、副産物と言うには大きすぎる成果物だと私は思うのです。